今回のテクニカルニュースの概要
今回ご紹介するのは、半径1800mmほどの非常に大きなR(円弧)形状を持つ板金部品の設計段階からの提案事例です。高額な専用プレス金型が必要となるこの部品に対して、 設計から見直し、高額な初期費用をかけずに製品化を実現するVE提案をご紹介します。
通常、大きなR曲げは、通常のベンダー加工では対応できず、専用のプレス金型が必要となります。しかし、その製作には高額な初期費用がかかるため、今回の製品の生産数量を考慮すると、採算が合わないという大きな課題がありました。
そこで当社では、お客様の設計イメージを損なうことなくこの課題を解決するため、滑らかなR形状を複数の鈍角曲げ(浅い角度の曲げ)で近似する、新たな形状への設計変更と工法転換をご提案しました。
課題:大きなR形状の加工に、高額な専用プレス金型費用がかかってしまう…
お客様の当初の設計では、意匠性の高い大きなR形状が特徴的なカバー部品となっていました。しかし、この形状を製作するには、2つの大きな課題がありました。
①高額な金型費用
最も大きな課題は、高額な金型費用です。 半径1800mmのような巨大なR曲げは、この形状を一度に成形するための巨大な専用プレス金型が必要となります。
しかし、このような金型は製作に高額な初期費用が発生します。試作品や生産数量の少ない製品では、このような大型の専用金型の採用は非現実的です。今回の製品でも、製作総数を考慮しても採算が合わない見込みでした。
②大きなR形状のため、溶接時の位置決めを行う特殊な治具が必要
また、このプレス加工の後に、大きなR形状の部品と側面の板金部品を全周溶接する必要がございました。
大きなR形状のため、溶接時の位置決めを行うための治具も特殊なものが必要となり、溶接工程の工数が大幅に増加してしまうという問題も抱えていました。
このように、初期費用が高額なうえに、溶接工程でも工数がかかってしまいます。これらの課題から現状の部品設計ではどのように加工しても採算が合わないものとなってしまっておりました。
試作段階での「FR曲げ」という選択肢とその限界
この大きなR形状の加工において、試作段階であれば多数回曲げてRを近似する「FR曲げ」という工法も選択肢になります。
専用金型が不要なため、初期費用を抑えることができます。
下記のリンク先に社内でFR曲げ加工を行った際の動画がございます。
30秒ほどの短い動画です。ぜひご覧ください。
このように大きなR形状でも、金型レスで試作加工をすることができます。しかし、FR曲げは一点ずつ細かく曲げていくため加工に非常に時間がかかる工法であり、量産には向いていません。結果として、製品単価が高騰してしまいます。

FRによるR形状
>>【試作段階でのR曲げ加工方法 ”FR曲げ加工 ” のご紹介!】テクニカルニュース vol.31
本事例においても、試作後の量産を考慮すると、FR曲げで試作→量産を行うと工数が増加してしまいます。専用のプレス金型による工法と同様に、コストの面で適していませんでした。このため、当社では、設計段階を見直し、コストダウンにつながるVE提案をいたしました。
筐体設計・製造.COMの対策:直線を用いてR形状を近似する設計の見直しで、金型製作を不要に!
そこで当社では、これらの課題を根本から解決するため、「複数の鈍角曲げで大きなR形状を近似する」という設計変更をご提案しました。
これは、「滑らかな円弧は、短い直線の集合で近似できる」という原理を応用したものです。Rが十分大きければ、輪郭を近似することができます。下の図のように、大きなR形状を複数の直線的な曲げで構成することで、専用金型を使わずに形状を再現します。
この工法では、高価な専用金型は一切使用せず、ベンダーの金型で曲げ加工が可能です。また、R形状そのものを無くして直線的な構造に変更したことで、溶接治具の簡略化や位置決め工程の省略も可能となり、全体の加工工数を大幅に削減することに成功しました。
この設計変更提案により、高額な専用プレス金型を製作することなくR形状を再現します。この結果、圧倒的な初期費用の削減ができます。また、複雑な溶接治具の製作や位置決め工程が簡略化され、全体の加工工数が削減されるためリードタイム短縮にも貢献します。
このように、当社ではお客様の図面通りに製作するだけでなく、生産数量やコスト、品質など、あらゆる角度から最適な工法を検討し、ご提案することで、お客様の課題を解決いたします。
まとめ
このように、筐体設計・製造.comを運営する岡部工業では、お客様への日々のVE提案に加え、生産性の高い機器を積極的に活用することで、お客様のご要望に柔軟に応えて参ります。筐体の設計・製造、あるいは筐体の板金部品加工など、お困りのことがありましたら当社にお声掛け下さい。
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